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高関税で米の製造業は復活するのか?鉄鋼・造船業のシビアな現状

米トランプ大統領の就任100日、いわゆるハネムーン期間が4月29日に終了しました。米トランプ大統領は二期目なのでバイデン前大統領の4年間の間に用意周到に準備をしていたためか、大統領に就任するや否や、矢継ぎ早に公約実行の大統領令を約130本発令しました。その数たるや、戦後最多のバイデン前大統領の3倍を超えました。公約の根本に“MAGA”(米国を再び偉大に!)を掲げ、アメリカ市民の仕事を奪い、薬物や犯罪を起こし治安を悪くする不法移民を排除し、高関税を掛けることで貿易赤字解消と製造業の国内回帰による雇用確保を目指しています。
果たしてトランプ米大統領が言うように高関税で製造業の国内回帰が図れるのでしょうか?全米製造業者協会(NAM)によると、米国への輸入品の約60%は製造用の部品や素材などです。NAMはこれらを関税の対象外とするよう求めています。製造業を立ち上げるためには、部品、素材を造る一次、二次の下請け下部組織ができていないと競争力のある製造業を育てることは困難です。自動車産業はまだしも、造船業をどうやって米国に根付かせるつもりでしょうか?中国造船業の世界シェアは30%を占めています。中国に負けない鉄鋼業、造船業を一朝一夕に造ることは不可能です。もしも造ることができ、その企業を高関税で保護したとしても、一時的な徒花で終わること間違いありません。
中国は年間10億トンの鉄鋼を生産しています。世界の半分以上の鉄鋼を生産する中国とどうやって競争するのでしょうか?国内余剰分を海外に廉価に販売する国とどう立ち向かうというのでしょうか?
USスチールが5月1日に発表した、2025年1~3月期決算は、売上高が前年同期比10%減、37億2700万ドル(約5400億円)、最終利益は1億1600万ドル(約170億円)の赤字(前年同期は1億7100万ドルの黒字)です。減収は11四半期連続、最終赤字は2四半期連続となります。USスチールは米国を象徴する鉄鋼会社ですが、これが現状です。
日本製鉄は、2024年12月USスチールを141億ドル(約2兆円)で買収することで合意していました。粗鋼生産量世界第4位の日本製鉄による同24位のUSスチールの買収が成立すれば世界第3位の巨大製鉄会社が誕生します。それこそトランプ米大統領が主張しているように、米国で雇用を守り、本当に競争力のある製造業を米国に根付かせることができます。中国に対抗していける米国鉄鋼製造会社を育てることができるのではないでしょうか?トランプ米大統領に言いたい!米国に存在する企業強化から始めるべきだと思います。
高関税でも買われる中国製、迷走する米政策の行方

3月26日、日本車を含む全ての輸入車に25%の関税を発表しました。そして適用開始を4月3日としました。自動車部品は5月3日に適用開始しています。一方、4月2日にトランプ大統領が相互関税の詳細を明らかにすると、想定を上回る高関税の警戒感から株価が急落し、ダウ工業株30種平均の前日比の下落幅は2231ドル安と史上3番目の水準を記録しました。慌てたトランプ大統領は金融業史上の動揺を抑えるために、4月9日に発動したばかりの相互関税措置に対して中国を除き、90日間停止すると表明すると、株価は急反発し、上昇幅は2962ドルと史上最大となりました。4月11日にはスマートフォンと電子関連製品を対象外にすると発表しました。米国で販売されているスマートフォンの半分以上は米アップルのiPhoneで、その80%が中国生産です。そして中国製品のスマートフォンとコンピューターなどの電子機器や部品は除外されました。
トランプ米大統領の言動に対する不信から海外投資家が米国株所有を減らしています。民間推計で3月以降の累計売却額は630億ドル(約9兆円)となりました。米国債ファンドからの資金流出も続いています。高関税政策がもたらす米国景気や企業業績への直接的な打撃に加え、高関税を巡る不確実性が米国から投資マネーの逃避を引き起こしているのが現実のようです。
一方、米国は中国に対して現在、総関税145%を課しています。しかし、2024年の米国の中国製商品の総輸入額の内36%(約1580億ドル)に当たる品目が米国輸入市場のシェアの70%を上回っています。スマートフォン、玩具、蓄電池、ビデオゲーム、プラスチック製品、電気暖房器具、娯楽用品などの消費財が占めています。また中国製総輸入額の内24.1%に当たる品目の輸入市場のシェアが81~100%に達しているという報告もあります。
更に、中国製商品の価格競争力が優れていることが指摘されています。米国が中国から輸入している製品の輸入額の52%の品目は、中国以外から輸入された競合製品より米国市場の販売価格が最大で50%安く、中国製品の輸入額の内21%に当たる品目は、競合製品の半分程度の価格で米国内で販売されているという報告もあります。結局は高関税を掛けても米消費者は引き続き中国製品を購入し続ける可能性があるということが見えてきます。
米国は中国の輸出先全体から見たら14%のシェアに過ぎず、中国経済規模は14兆ドル(約2100兆円)あり、対米輸出はそのうちの5500億ドル(約850兆円)に過ぎないと見る向きもあります。トランプ米大統領と中国との我慢比べの様相を呈してきていますが、トランプ米大統領がその内、“もうやめた!”と言って高関税政策を放棄する姿が見えてきそうです。
中国経済に深刻な兆候、成長率も減速へ
但し、中国経済も安泰ではありません。それは雇用対策です。今年の大卒数は史上最高の1220万人以上と言われています。2020年から2024年の大卒の失業者数は3000万人に上ると言われています。3月9日に国家統計局が2月の全国工業生産者出荷価格指数(PPI)を公表しました。前年同月比2.2%の下落、2022年10月以来、連続29カ月の下落となっています。その背後にあるには業績悪化で倒産と大量失業の現実があるようですので時間的猶予はありません。
今年2月、米通称代表部(USTR)は中国による海運、物流、造船分野の支配的地位を不公正な貿易慣行に当たると認定し、米国通商法301条に基づく対抗措置を課すと発表していました。そして4月17日に米国港湾に寄港する中国船社の運航・保有船に対する入港料及び中国建造船などを対象にした入港料の詳細を発表しました。2段階に分けて実施され、第一段階は180日間の猶予期間後、中国船社の船舶に対し、1トン当たり50ドルの入港料が課され、3年間段階的に増額する方針です。中国建造船については船舶ネットトン数とコンテナ本数のいずれか多い方に基づき入港料を算出し、到着船舶で1トン当たり18ドル、コンテナ1本当たり120ドルを徴収するとしています。但し、4000TEU以下の船型は中国建造船も対象外になりましたが、コンテナ船は中国船社だけでなく他国船社も中国建造船のシェアが高いので海上輸送のコスト上昇は計り知れません。米トランプ大統領の坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというハチャメチャな政策は米国高インフレの大きな要因になることは間違いありません。
中国の1~3月の実質国内総生産(GDP)は前年同期比5.4%増えましたが、不動産不況に伴う内需不振が続いています。トランプ米政権の対中追加関税は125%に上り、累計145%に達しています。米国向け製品生産停止、契約破棄により輸送需要は急減しています。5月11日までの1ヶ月で米国向けのコンテナ船26便の運行がキャンセルとなり、4月13日までの1週間と比べて4割近く減少する見込みとのことです。ゴールドマン・サックスは米国の相互関税引き上げなどの理由で2025年の中国の成長率を4.5%から4%に下方修正しました。
MSC独走、CMA米国へ投資、ONEは関税影響で明暗分かれる
欧州海事調査会社、アルファーライナーによると、スイス船社MSCは今年4月初めに船隻数が世界初の900隻に達したと報じています。内訳は自社保有船609隻、用船291隻です。MSCはコロナ禍から400隻超の中古船を買付、現在のMSCグループの総運航規模は約647万TEUに達しています。2位のマースクを約100万TEU上回っています。MSCの現在の運行規模は全体の20.3%を占めています。その上、MSCは132隻の新造船を確定発注しています。数年以内に運航船隊は1000隻に達する見込みです。
フランスのコンテナ船社、CMA-CGMグループは米国に今後4年間で200億ドルの投資をする方針を打ち出し、グループ所有米国船社、APLの米国籍船を10隻から30隻に拡大することを打ち出していました。しかしフランスのマクロン大統領は米トランプ大統領が4月2日相互関税措置で10%の輸入関税を課すことに対して仏企業に対して米国の投資を一時停止することを要請しましたのでCMA-CGMの米国投資に影響が出てくる可能性もあります。
Ocean Network Express(ONE)の2024年度通期決算は、税引き後利益が前の期比4.4倍の42億4400万ドル(約6053億円)と大幅な増益となりました。2025年度通期の業績見通しについては米国の関税政策による不透明感を予想して大幅な減益を見込んでいますが、それが比較的、安定して推移する場合は、税引き利益を11億ドルと見込みますが、相互関税の影響が顕在化した場合には、税引き利益は2億5000万ドルまで落ち込むと見ています。一方、ONEは6月16日に配当金を親会社である、日本郵船に約7億6000万ドル(約1136億円)、商船三井に約6億2000万ドル(約926億円)、川崎汽船に約6億1900万ドル(約926億円)を支払うと発表しました。親会社三社は2026年3月期の連結決算で営業外収益として計上する予定です。
2025年3月の新造コンテナ情報~出荷鈍化で工場在庫増
4月のコンテナ新造価格は$1650 per 20fでした。先月より-5.7%、$100値下がりしました。これは鋼材と床材の値下がりが大きな要因です。1月の$1,900 per 20fから-13.2%、$250の値下がりとなりました。5月以降の中国からの米国向けの物流が最大6割落ち込むと言われていますので米国との関税問題が解決しない限り新造コンテナの需要は増えない可能性が高いと思われます。
4月の新造コンテナ生産量は、470,255 TEU (Dry: 426,258 TEU, Reefer: 44,997 TEU)でした。新造コンテナの工場残は、1,57,749 TEU (Dry: 1,514,674 TEU, Reefer: 60,075 TEU)となりました。前月との比較は、総数+43,282 TEU (Dry: +47,042, Reefer: -3,760 TEU)でDryは増加となりましたが、Reeferは減少しました。前月比でいうと、総数+2.8%(Dry: +3.2%, Reefer: -5.9%)となりました。工場出荷数は、総数426,973 TEU (Dry: 379,266 TEU, Reefer: 47,757 TEU)で、米国へ駆け込み輸出として、それなりの数が工場から出て行ったと考えられます。しかし、全体の工場在庫数は前月から+2.8%、43,282 TEU増加となりました。
カリフォルニアに抜かれた日本、失われた30年の真実

4月24日、米カリフォルニア州の経済規模(GDP)が日本を抜いて世界4位になったという記事が飛び込んできました。カリフォルニア州の名目GDP(国内総生産)に相当する州経済規模が2024年4兆1000億ドル(約586兆円)で、日本の2024年の名目GDP 609兆円(4兆200億ドル)を超えました。円安・ドル高の影響が出ています。
日本のバブル期は、1986年12月から1992年2月までの52カ月間の間を言いますが、その当時、皇居の側の土地がカリフォルニア州全体より高い価格で取引されていました。山手線内側の土地価格で、米国全土の土地が買えたと言われた時代でした。ロールス・ロイスが飛ぶように売れ、アメリカの象徴であるロックフェラー・センターを三菱地所が約2000億円で購入しました。会社の経費は使い放題、タクシー券も使い放題、新卒のボーナス袋が直立したという話もありました。
あれから30余年。日本経済はどうなったのでしょうか?
平家物語の一説が思い出されます。驕れるもの久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もついには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。