ますます進む円安のデメリット
日本円は、6月8日に$1.00=¥134を記録しました。2002年4月以来20年ぶりの円安です。今年1月の$1.00=¥113から半年で、19%、21円も下落しました。欧米がインフレ対策として金融引き締めに動いている中、日本は相変わらず大規模な金融政策を続けていることが大きな要因のようです。その上、欧米は一段の利上げを目指しています。欧州中央銀行は9月末までにマイナス金利政策を終了する予定とのことです。政府、日銀が何の手も打たないと、今後ますますの円安が予想されます。
日本円は、1985年9月プラザ合意を受けて、為替レートは$1.00=¥260から1988年に$1.00=¥120、一気に88%、140円の円高に振れました。その時、円高不況を恐れた国は公共事業に投資する財政出動を行い、日銀は公定歩合を5回も下げて1987年に2.5%という戦後最低の低金利で対応しました。市中に資金があふれ、国民は財テクに走り、土地、株、ゴルフ会員権等々が未曽有の高値となり、“山手線内側価格で米国本土が買える”と言われたほどです。未曽有のバブル景気を招きました。1991年にバブル景気は崩壊しますが、それ以前に、日本企業はプラザ合意後、特に輸出産業は、円高対策のため製造工場の海外移転を進めていました。本来、円高でも競争力がある製品まで海外移転したために日本は産業空洞化に陥り、その後30年後の今まで、経済低迷を克服することができていません。現在の円安はデメリットが大きいと言わざるを得ません。米国は毎年、年金受給者に年金インフレ調整を行っていますので手取りが少なくなることはありませんが、日本はそれがありませんので実質減額となり、我々庶民の生活はますます暮らしにくくなっています。そのことを日銀の黒田総裁は理解しているのでしょうか? 2022年の日本大手企業の平均昇給率は2.27%でした。岸田総理の所得倍増計画はどうされたのでしょうか?
米は引き続きインフレ対策を優先
米労働省の5月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から39万人増加しました。失業率は3.6%と前月から横ばいで推移しています。米連邦準備理事会(FRB)は労働市場の人手不足の解消に時間がかかるとみて、インフレ対策を優先し、毎月0.5%の急速且つ大幅利上げを5~7月に予定しています。利上げしても求人数の割合は4%台から7%台に上がるので、利上げでインフレ抑制ができると考えています。勿論、FRBは、インフレと金利上昇の影響が個人消費や住宅市場に影響を与え景気が後退するような場合は、利上げを取りやめることは考えていると思われます。引き続き米国が世界の経済の牽引役を果たしていくことは間違いないと思われます。
大幅な運賃上昇でコンテナ船社の業績は過去最高
主要コンテナ船社の2022年第一四半期業績によると、各社過去最高益の業績を出しています。中国のロックダウン、北米、欧州の港湾混雑深刻化により、遅延、欠便、抜港を余儀なくされましたが、新造船就航、用船、中古船購入で新たな船腹投入で輸送量は横ばいとなりました。大幅な運賃上昇に大きな要因があります。TEU当たりの平均運賃は、前年同月比で倍増。その上、長期契約運賃上昇及び長期契約比率増が寄与したことが上げられます。第二四半期も高運賃が続いており、2022年度も好業績を予想しています。
FMC最終報告「運賃高騰は船会社の不当な値上げではない」
米連邦海事委員会(FMC)は、2020年4月から2年間に渡って調査してきた海上運賃高騰問題等について最終報告書を5月31日に公表しました。海上運賃高騰はCOVID-19によるパンデミックと前例の無い消費需要拡大、サプライチェーン混乱による需給逼迫に起因するもので、船会社の不当な値上げではないと結論づけました。そしてアライアンスによる多くの欠便(Blank Sailing)は運賃値上げを図ったのではなく、港湾混雑を避けるためにやむなく実施されたものであると判断に至りました。
船会社によるサービスや投資が活発化
一方、船会社も如何に荷主からコンテナの返却を早くしてもらうか工夫をしています。その一つが、CMA-CGMが米国で5月16日から7月15日の60日間期限限定で行っているコンテナ早期返却インセンティブ・プログラムです。北米西岸や内陸地点の指定ポイントに早期にコンテナを返却した場合、最大300ドルを提供するという同プログラムは、昨年12月にLA/LBで導入され、9日間以上滞留するコンテナの73%を削減する効果があったとしています。
マースクはドイツ、ベルギーで適用している”Container Project”サービスを、6月1日から日本に返却されるコンテナについても提供しています。タイプ・サイズにかかわりなく1本当たり、2000円を払うとコンテナの洗浄、修理、保守費用総額の$150が免責になります。また1本当たり、5000円を払うと補償限度額の無いサービスも受けられます。但し、SOCは対象外となります。
Ocean Network Express (ONE)は5月31日、環境負荷低減技術を導入した最新鋭コンテナ船(13,700 TEU)を10隻建造することを発表しました。ONEが発足してから初めての自社保有船となります。2025年の竣工を予定しています。既に24,000 TEU船6隻をはじめ2022年2月までに52万TEU超えの船隊整備を実施していますが、いずれも船主起用による用船となっていました。中期計画では、更に、2030年度に向けて毎年約15万TEU規模の新造船投資を継続する方針です。サプライチェーンの需要拡大に応えるもので、脱炭素化の環境技術投資を継続し、投資総額は200億ドル以上となりますので大いに期待したいと思います。
港湾混雑緩和も今後は米労働協約更改交渉が影響か?
日本海事新聞によると、世界主要コンテナ港湾の混雑緩和が進んできていると報じられています。米国西岸ロスアンゼルス港(LA)・ロングビーチ港(LB)の1日当たりのコンテナ船の滞船隻数は2021年11月中旬の90隻から大幅に改善され、5月29日時点では26隻となっています。中国は6月1日に上海のロックダウンを解除しました。上海港に於ける滞船は4月中旬の100隻から5月末で82隻と緩和されてきていますが、生産活動が本格的に回復すると港湾混雑の再燃が見込まれます。
更に、米国西岸港湾混雑を引き起こす可能性が高いのが、米国西岸港湾の労働協約更改交渉の成り行きです。交渉は5月10日からスタートしましたが、一時中断し6月1日から再開されました。現時点では大きな進展はみられていません。現行労働協約期限切れ7月1日以降も荷役作業を行いながら交渉は継続すると予想されています。
ILWU組合員の平均年収$195,000は全米平均賃金の3倍もあります。その上、PMAはILWU組合員の医療・年金制度(一人当たりの年金パッケージ$102,000)も負担しています。ILWU組合員は世界最高水準の待遇を受けていると言われています。しかしILWU側も西岸港湾労働者がCOVID-19によるパンデミックのリスクの中、歴史的な物量取り扱いに貢献した事実を待遇改善の機会にすると考えられます。ILWUも必死で交渉に臨むことが予想されます。交渉は長期に及ぶと考えられます。しかし、LA/LBの更なる機械化による効率化は待った無しの状況です。
サプライチェーン混乱収束後の余剰コンテナ対策が必要
欧海事調査会社シーインテリジェンスはサプライチェーン混乱収束後、海上コンテナ1300万TEUが余剰になるとの見解を発表しました。独船社、ハパックロイドの過去12年間の機器保有量と輸送量の推移を調査し、その運用効率を計算しました。その結果、現時点でサプライチェーンのボトルネックが解消された場合、運用効率が改善し、ハパックロイドが必要とするコンテナ本数は17%減少すると予測しました。世界の海上コンテナ数は2017年に5000万TEUを突破。その17%に当たる既存の約850万TEUと2022年中に製造が予想される新造コンテナ数450~480万TEUの合計1300万TEUが余剰分とみています。船会社は2023年以降その余剰在庫の調整が始めるとみています。リース会社も今からそれに備える必要があります。
5月のコンテナ市場動向
5月末の新造コンテナ価格は$2,800 per 20fです。先月から約8.2%、$250値下がりしています。5月の新造コンテナ製造本数は328,910 TEU、先月から約6.9%、24,300 TEU減っています。その内訳をみると、Dryは304,495 TEU、前月に比べ、約4.1%、12,941 TEU減り、Reeferは24,415 TEUで、前月に比べ約32%、11,359 TEU増加しています。5月末の工場在庫は、928,294 TEUで、7.6%、65,662増加しています。Dryは32%, 11,359 TEU増加。Reeferは4.2%、3,579 TEU,増加です。5月に船会社、リース会社に引き渡された本数は、263,248 TEU(Dryは242,212 TEU、Reeferは20,836 TEU)です。
今年(1月から5月)の新造Dryコンテナ発注合計、1,537,675 TEUで、其の内Top 10の内7社が船会社(MSC, CMA, MAE, EVE, YMT, PIL, OOCL)で76%を占めています。船会社が自社コンテナ所有に切り替えてきている様子が分かります。因みにTop 10で全体66%のシェアに達します。これもリース会社にとって大きなインパクトがあります。