【市況レポート】「超円安下における雇用の創造」「中国経済の変調」他 2022年9月

  • by 中尾 治美

超円安下における雇用の創造                  

              日銀の黒田総裁は毎日、針の筵の上に座っている気分ではないでしょうか?現在、さらに急激な円安、$1.00=Yen 144局面で、一説には$1.00=Yen160に行くのではないかと言われています。帝国データバンクによると10月に予定されている値上げ商品は6532品目に上り、今年に入り最多の値上げだった8月、2493品目の約2.6倍となり、2022年の年間では2万品目を超えると予想しています。少なくともその半分は円安の影響によるものと言われています。但し、このまま円安が続くなら、値上げ品目はさらに増えることになります。

              黒田総裁はこの超円安が過去30年に及ぶ停滞をもたらした日本のデフレ経済に作用してインフレが起こり、賃金上昇に繋がり、経済上昇スパイラルが起こることを期待しているのかもしれません。しかし、米国経済は底堅く、米連邦準備理事会(FRB)が高インフレを抑えるのにかなりの時間がかかると予想されます。日本の中小企業は全体の99.7%、従業員数で約70%を占めています。その経営状況は日本経済に直結しています。その意味でこの急激な円安は中小企業、我々庶民にとって悪い円安だと思います。

              2021年度の企業の内部留保、利益剰余金は500兆円を超えています。その利益はほとんどが大企業のものです。残念ながら大部分の大企業はその使い道が分かりません。まして我々の賃上げに直結しません。しかし日本経済力は捨てたものではありません。黒田総裁の一言でこの円安を反転させることができます。それは他国がやるように、米国に対抗し、自国金利を上げることです。また、米国と一緒で、“日本ファースト”を優先することです。但し、お金のバラマキはやめて、国内で雇用を創り出すことです。米国のニューディール政策ではありませんが、それは日本経済を活発化させることができます。中小企業の従業員給与が上がります。その機会を創ることができれば問題は解決できます。

今後しばらくはドル一強が続く見通し

              米労働省が9月2日に発表した8月の非農業部門就業者数は前月から31万5000人増加となりました。失業率は3.7%で、前月の3.5%から0.2%上昇し、これは7か月振りの上昇となりました。平均時給は$32.36、前月比0.3%増、前年同月比5.2%増となりました。8月の労働参加率は62.4%に上昇し、2020年3月以来の高水準となりました。労働参加率の上昇は賃金を抑える要素となりますが、比較的顕著な平均時給の伸び率5.2%は、引き続き消費を活発化させ、インフレを促進させる可能性があるため、インフレ抑制のため、連邦準備制度理事会(FRB)は6月、7月同様に9月に0.75ポイントの政策金利引き上げるとの見通しが有力視されています。引き続きドル一強が続くことになります。

中国経済の変調

              一方、中国は、9月1日から四川省の省都、成都市のロックダウンを実施しました。約2100万人の住民が自宅待機を余儀なくされました。成都市はテクノロジー企業、トヨタ自動車を始め自動車メーカーの集積地として知られ、中国の国内総生産(GDP)の約1.7%を占めています。成都市のロックダウンは9月7日まで延長されました。長期にわたるロックダウンはサプライチェーンに深刻な影響を与えます。中国で現在、”ゼロコロナ政策“で全面的、部分的にロックダウンが実施されている都市は、成都市を含め、33に上り、6500万人を超える住民が影響下にあると言われています。2か月に及ぶ上海市のロックダウンの後だけに中国経済に与える影響は想像を超えるものがあるに違いありません。

              ロックダウン中の四川省で9月5日、マグニチュード6.8の地震が発生し、その上、四川省、重慶市、河北省、湖南省、湖西省、安徽省の揚子江流域を中心に記録的な猛暑と水不足で水力発電量の減少、電力不足が発生し、計画停電の実施で多くの企業が操業停止を余儀なくされています。クラスターを避けるために、各地で在宅勤務が行われているのが現状です。中国国家統計局が8月31日に発表した8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.4で、好調・不調の境目である50を2か月連続で下回っています。中国経済の先行きが少し心配です。

              世界鉄鋼協会によると、世界的に鋼材の値下がりが起こっています。その主要因は中国の景気停滞にあるようです。ゼロコロナ政策で不動産投資の落ち込みによる国内鋼材需要不振で、その行き場を失った中国鋼材が輸出に回り、2020年12月以来の安値の原因となっているようです。しかしその安値も欧米のインフレによる消費落ち込みで需要を喚起するところまで行っていないようです。世界経済の再生にはかなりの時間がかかるとみられています。

深刻なドイツ経済

              米S&Pグローバルが8月23日発表したユーロ圏全体のPMI(ユーロ圏総合購買担当者景気指数)は総合で49.2と前月から0.7ポイント低下し、製造業は49.7と前月から0.1ポイント低下、2カ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回り、2021年2月以来の低水準となりました。特にドイツの経済変調が深刻さを増しています。ドイツ経済の弱さはユーロ通貨下落圧力となっています。ドイツ連銀によると7月に8%超だった消費者物価上昇率は、今秋にも10%程度に達するとみています。スタグフレイション(景気が後退していく中でインフレーション(物価上昇)が同時進行する現象)の懸念も払しょくできません。

コンテナ船の沖待ちは北米西岸から東岸へ

              北米港湾のLA/LB港の沖待ちコンテナ船隻数は8月末現在、大幅に改善され、一桁台の沖待ちで、年初来の100隻以上の沖待ちがうそのようです。しかし北米東岸主要港では滞船が増加傾向に有り、特にサバンナ港では40隻以上が滞船、ニューヨーク・ニュージャージ港、ヒューストン港では、それぞれ10隻以上の船が沖待ちを余儀なくされているようです。港によっては入港するまでに30日以上かかるケースもあると言われています。それは北米西岸の混雑回避のために多くの船が北米東岸にシフトした結果引き起こされたとみられています。

コンテナ運賃が大幅に値下がり

              業界紙が9月に入り主要航路で大規模な運賃低下が出ていると報じています。9月2日付上海発北米西岸向けコンテナ運賃(スポット)が、$3,959 per 40fで、前週の$5,134から$1,175も急落しました。北米西岸向け運賃が1週間で$1,000以上落ち込んだのは初めてとのことです。北米東岸向けも前週比$500弱下げて、$8,318 per 40fとなりました。その原因の一つは、米大手小売業者が港湾混雑による遅延を見越して多めに注文をしたものの、港湾混雑解消により予想より早く貨物が到着し、保管スペースが足りなくなり、その後、発注を控えた結果と伝えています。欧州航路は、北欧向け運賃は$4,252 per 20f、地中海向けは、$4,774 per 20fで、いずれも前週に比べ$200~300値下がりしています。

気になる米労使交渉の行方

              北米西岸港湾労組、IWLUの一つの支部がLA/LB港でストライキを決議したと、9月8日付けの業界紙は伝えています。今年の交渉は混乱なく進むのではと期待されていましたので、ストの進展が気にかかります。全米主要鉄道30社の労使交渉も、8月末までに12の組合のうち三つの組合が鉄道会社側と暫定合意に達したものの、残る九つの組合とはまだまとまっておらず、動向が注目されています。
              一方、欧州主要港では、トラック、鉄道、港湾事業者がインフレのための賃上げ要求で、労使紛争が多発しました。それによるサプライチェーンの混乱は出てきます。引き続き船会社のコンテナインベントリ管理を難しくすることは間違いありません。結果としてコンテナリース会社の稼働率はまだ高止まり、97~98%以上で今年は運用されると思われます。

CIMCがMCIの買収を断念

              8月25日、コンテナ製造世界最大の中国CIMCグループは、マースクグループのコンテナ製造会社部門MCIの買収に対し、米司法省が、中国国営企業が同市場の90%以上のシェアを占めることに懸念を示したため、買収を断念したと発表しました。マースクとCIMCは、2021年9月28日、MCIを10億8380万ドルで売却することに同意し、2022年以内に引き渡しを完了することになっていました。これを受けて、早くもMCI買収に興味を示している冷凍機メーカー、キャリア・トランジコールド、ダイキン工業、投資会社等が名乗りを上げているのでその行方が注目されます。

8月のコンテナ市況

              8月の新造コンテナ価格は$2,550 per 20f、前月から約6%、$150の値下がりです。新造コンテナ生産量は、435,464 TEU (Dry: 405,795 TEU, Reefer: 29,669 TEU)、先月から36,729 TEU,9%の増加となりました。新造コンテナの工場残は約8%、76,465 TEUの増加となりました。新造コンテナ製造数は年末に向かって先細りすることが予想されますので、コンテナ新造価格も下降局面にあると言えます。

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