「植田日銀新総裁の課題」「Tritonを買収したBIPCのチャレンジとリスク」他 / コンテナ市況レポート 2023年5月

  • by 中尾 治美

低賃金・物価高に苦しむ国民、植田日銀新総裁の課題

  4月10日の日本銀行総裁就任の記者会見で、植田和男新総裁は“大規模緩和”を継続すると表明しました。前総裁、黒田氏の過去10年間の異次元金融緩和は企業に10年間連続で内部留保を更新させ、2021年には500兆円を超えるまでに至りました。一方、日本人の平均給与は下がり続け、2020年労働白書によると、2018年のピーク時から40万円下落しています。その要因は非正規社員の増加です。1999年の非正規雇用者数は全体の29%が、2018年には38%に上がり、2021年は2064万人で37%を維持しています。日本企業は、その500兆円超の内部留保で満足し、投資意欲を失い、人的投資が更なる成長をもたらすことも忘れてしまったようです。

OECDが2020年に公表している加盟国の平均賃金比較を見てみましょう。

米国6万9,391ドル
ドイツ5万3,744ドル
 英国4万7,147ドル
フランス4万5,580ドル
 韓国4万1,960ドル
日本3万8,514ドル
イタリア3万7,769ドル

 2020年の円ドル年間平均レートが$1.00=106円です。2022年の円ドル年間平均レートが$1.00=131円ですので24%も円安になっています。それを踏まえると、現在の日本の平均賃金は3万1,164ドルとなり、上記の中で最下位になります。
 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、2022年3月に米国の急速なインフレ対策のために政策金利を0.25%から0.50%に利上げました。各国はそれに追随し金利を上げ、自国通貨を守りました。日本はゼロ金利政策を維持した結果、急激な円安に見舞われ、現在、国民はひどい国内物価高に苦しんでいます。
 黒田前日銀総裁の10年間は何だったのでしょうか?策に溺れ、実質、日本の力を削いで来たのではないでしょうか?植田日銀新総裁には国の経済力の象徴である円ドル為替レートの至急の是正を望みたい!国民生活を守る即効性があり、多くの税負担に苦しめられている国民が望んでいることであると思います。

米金利政策による市場への衝撃とドル経済圏の混乱

 米労働省が5日発表した非農業部門の就業者数は前月から25万3000人増加しました。市場予想の18万人を上回りました。4月の失業率は3.4%で、50年ぶりの低水準を記録した1月に並びました。平均時給は前月から0.5%、前年同月比4.4%上昇しました。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、インフレ抑制を優先し、5月から0.25%利上げで政策金利を5.50%に決め、米国の景気の力強さの芽を摘みました。1年2か月の間に10度目の利上げです。あまりにも急激な利上げのために、米地方銀行3社が2か月経たないうちに経営破綻に追い込まれました。3月10日にシリコンバレーバンク、3月12日にシグニチャーバンク、5月1日にファースト・リパブリック・バンクです。銀行破綻の要因としてSNSとインターネットを通じた金融サービスが預金の流出のスピードを加速させたと言われています。その上、スイスの大手金融グループ、クレディ・スイスに飛び火し、顧客資金流出が止まらず、3月15日に株価が急落し、3月19日にスイス金融大手であるUSBに救済買収されました。インフレを乗り越えるためのパウエル議長の急激な金利政策はSNSとインターネットが発達した現状では負の効果が強調され、不安を煽るだけで、現実的にそぐわないのではないでしょうか?ドル経済圏の各国が身勝手な米国の独断に困惑していると思います。これも至急是正する必要があると思います。それでなければ中国の人民元決済が拡大する結果になるのではないでしょうか?ブラジル、アルゼンチン、マレーシアが、夫々、人民元決済検討、導入、拡大に動いています。

米国輸入貨物量の動向とILWU/PMA労使交渉の合意

 5月8日、全米小売業協会(NRF)が米国主要港における今後の最新予想コンテナ輸入貨物量を公表しました。今年上半期(1~6月)の予想は、1080万TEUとしていましたが、前年同期比、22.8%減、1040万TEUに下方修正しました。過去2年間のような爆発的需要は見られないが、過剰在庫が解決するまで輸入は低調に推移するとしています。

3月 ― 前年同月比30.6%減、162万TEU(2月から5%増加)
4月 ―   〃  23.4%減、173万TEU
5月 ―   〃  23.5%減、183万TEU
6月 ―   〃  15.9%減、190万TEU
7月 ―   〃   7.9%減、201万TEU
8月 ―   〃   9.9%減、204万TEU
9月 ―   〃   3.3%減、196万TEU

1~9月累積は前年同期比178%減、約1650万TEUと予想しています。コロナ禍前に戻っているということです。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、4月20日に国際港湾倉庫労働者組合(ILWU)が米国西岸港湾労使交渉でロスアンゼルス港、ロングビーチ港の非自動化コンテナターミナルの増員について太平洋海事協会(PMA)と暫定合意に達したと発表しました。この夏にも組合員の投票で正式な新労働協約の発行が実現すると報じています。ILWU/PMAの不測の事態を想定して米国東岸、メキシコ湾岸経由に振り替えられていた貨物が米国西岸に回帰することが考えられます。

コンテナ運賃下げ止まりか?

 英国海事コンサルティング会社、Drewryが5月4日に発表したコンテナ運賃指数は以下の通りです。

コンテナ船運賃指標(WCI) ※5月4日
航路名ドル/FEU前週比前年比
総合指数1,7631%-77%
上海/ロッテルダム1,6453%-84%
上海/ロサンゼルス1,8250%-79%
上海/ニューヨーク2,8292%-75%

 欧州、北米航路の主幹航路で2022年夏頃に急激な荷動き減、運賃下落が起こりました。荷動きはその後、北米航路で10月以降、前年度比10%以上減少、欧州航路で9月以降、20%以上の減少となりました。如何にその変化が急激であったか理解できると思います。欧米の消費減少に伴う、卸、小売業者の過剰在庫問題の顕在化が、荷動き減少を招き、回復した船腹供給量を深刻化させました。船会社は減便で対抗しましたが運賃下落に歯止めをかけることはできませんでした。

躍進するONEの特徴と強み

 邦船3社のコンテナ船事業統合会社、Ocean Network Express (ONE)の2022年度(2022年4月~2023年3月)の売上高は、前年度比3%減の292億8200万ドル、税引き後利益は、前年度比10%減の149億9700万ドル、コンテナ総積み高は、前年度比8%減の1108万1000TEUでした。2022年上半期の高運賃市況が下期の運賃下落を補い2期連続2兆円超えを達成しました。2023年3月末時点、ONEは209隻、155万7099TEUを運航する会社です。その上、新造船発注残45隻が将来加わります。コンテナ定期船社に特化したONEの特徴は、フットワークの軽さです。Port to Portのサービスにおいて、ONEは、その両地域で最善のサービスを提供してくれる取扱業者を選ぶことができます。自社系列を優先する不適切なしがらみから解放されます。その上、きめの細かい日本的おもてなしサービス精神で荷主を虜にすれば鬼に金棒です。

巨人Tritonを買収したBIPCのチャレンジとリスク

 4月12日、カナダのBrookfield Infrastructure Partners LP(BIP)の子会社、Brookfield Infrastructure Corporation(BIPC)がコンテナリース会社最大手、Tritonを買収すると発表しました。Tritonの普通株式に35%のプレミアムを上乗せ、1株あたり85ドル(現金+株式交換)で買い取るもので、買収額は47億ドル($1.00=Yen130で円貨6110億円)、総企業価値は133億ドル($1.00=Yen130で円貨1兆7290億円)。今年末までに取引完了し、Triton株は非公開となります。Tritonは約710万TEUを保有・運用するコンテナリース会社の最大手です。2022年業績は売上高、16.8億ドル、純利益6.9億ドルを達成しました。Triton managementとしては強い味方を得たことになります。しかし船会社がコンテナ過剰在庫問題を抱えた現状で果たして、BIPCにとって良い買い物になるのでしょうか?
 100%近い稼働率を誇っていたリース会社の稼働率が10%下がったとしたら、710万TEUを抱えるTritonの収益は10%のリース収入を失うのと同時に、10%の不稼働のデポ在庫が増え、2重苦のコスト増加となります。それは71万TEUのデポ在庫のStorage Costが全世界で発生するということです。例えば一日当たり全世界平均Storage Cost、$0.50/TEU掛かるとするとStorage Costだけで一日35万5000ドル、1か月30日と計算して、1065万ドルかかる計算になります。それが半年続くとすると、6390万ドルのStorage Costがかかってきます。かなりリスクを抱えた買い物であることが分かると思います。
 Drewryによると、コンテナリース会社が世界のコンテナの52%を所有しています。またコンテナリース会社の保有規模Top 5は下記の通りです。

No. 1Triton710万TEU
No. 2Textainer 440万TEU
No. 3Florens390万TEU
No. 4Seaco240万TEU
No. 5CAI180万TEU

2023年4月の新造コンテナ価格

 4月新造コンテナ生産数は169,832 TEU (Dry: 145,119 TEU, Reefer: 24,713 TEU)でした。新造コンテナ工場在庫は、972,048 TEU (Dry: 899,108 TEU, Reefer: 72,940 TEU)で、前月より2%、18,647TEU増加となりました。残念ながら今月も販売価格の確定は出来なかったようです。
 中国の鋼材価格は2022年末から下がり、4月で約5か月ぶりに安値を付け、中国国内景気の冷え込みにより余剰鋼材は輸出にその販路を見つけています。その点からしてもコンテナ価格は3月以降徐々に下がっていると推測できます。


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