【市況レポート】「マースク、船舶資産比率の拡大が裏目に」「Stonepeak社がTextainer社を買収」他 2023年11月

  • by 中尾 治美

米高金利政策の至急の是正を!

 米労働省が3日発表した10月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は9月より15万人増加。失業率は3.9%で、8月、9月の3.8%より0.1%上昇しました。平均時給は前月比で0.2%上昇です。しかし、一方でFRBの2022年3月から始めた高金利インフレ抑制政策は実体経済に大きな影響を与えています。30年固定の住宅ローンは2年前に3%の金利が足元では8%に上昇しています。新車購入時の4年ローンが過去1年で6%から8.3%へと上昇。クレジットカード会社、アメリカン・エキスプレスは7~9月期に不良債権処理費用を12億3300万ドル、前期同期から6割増やしたと報告しています。米国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費活動が米国経済の軟着陸のカギを握っています。連邦準備制度理事会(FRB)議長、ジェローム・パウエル長官に米国民のことをもう少し考慮してほしいと思います。

ユーロ圏は景気不安、日本は内部留保が11年連続増加 円安?

 欧州連合(EU)の20ヵ国で構成されるユーロ圏の7~9月期の実質域内総生産(GDP)は前期比0.1%減少しました。年率換算では成長率がマイナス0.4%と3四半期ぶりにマイナスに転落しました。インフレ抑制のための急激な利上げが重荷となっていることは事実です。その上、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突で資源高の再燃で景気不安が高まっているのが現状です。
 東証プライム上場で3月決算企業の4割弱、393社の2023年4~9月決算の純利益が前年同期比3割増の最高収益を更新しています。トヨタ自動車は2600億円の円安効果で純利益は前年同期比2.2倍の2兆5894億円となりました。
 国際通貨基金(IMF)が10月発表した各国の名目国内総生産(GDP)予測で、日本はドイツに抜かれ4位に下がりました。為替マジックです。一方、2022年度の企業の利益余剰金(内部留保)は554兆7777億円で、前年度より、7.4%増加しました。11年連続で最高益です。

世界中で円キャリー取引が拡大、日銀の独りよがり政策の是正を

  円は10月31日に$1.00=Yen151を付けました。円はドルだけでなく対ユーロでも年初から下落して7日に1ユーロ=161円と2008年8月以来の円安です。オーストラリアドルにたいしても1豪ドル=97円と4ヶ月半ぶりの円安をつけました。対シンガポールドルも1985年以来となる円安、1シンガポールドル=111円と下落しています。円貨は各国通貨に対して全面安です。これは低金利の円を借りて高金利通貨で運用する“円キャリー取引”が拡大しているからです。植田和男日銀総裁!それでもあなたはまだマイナス金利を維持するのですか?これ以上日銀の独りよがり政策で国民に犠牲を強いるのは止めてもらいたいと思います。

コンテナ運賃は底を打ったか?

  Drewryが2日に発表したコンテナ船運賃指標WCIは、総合指標が前週比5%増の$1406/FEUで、11週間ぶりに前週比で上昇しました。上海発ロッテルダム向けが4%増と、2週間ぶりに上昇しました。上海発ロサンゼルス向けは11%増と大幅に上昇。上海発ニューヨークは向けも堅調に推移しました。今後数週間、東西航路の運賃水準は現在の水準近くで推移すると予想しています。

コンテナ船運賃指標(WCI) 11月2日 ※Drewryより参照
航路名ドル/FEU前週比前年比
総合指数1,4065%-54%
上海/ロッテルダム1,0484%-72%
上海/ロサンゼルス2,17511%-8%
上海/ニューヨーク2,6163%-54%

パナマ運河干ばつの影響、滞船数減少も長期化の懸念

 パナマ運河が過去100年で最悪の干ばつで渇水が深刻化しており、通航できる船舶数が削減されています。水不足の原因はエルニーニョ現象で海水気温が上昇し、降雨の時期が遅れたことが報告されています。パナマ運河は太平洋と大西洋を結ぶ全長80㎞の人造運河です。2016年、貨物船の大型化に対応する拡張工事が終了し、通航可能なパナマックス船に加え、ネオパナマックス船も通航可能となりました。
 パナマ運河は1日に通航する船数を平均36隻だったものを、11月から31隻に絞り込む方針を打ち出しています。8月には200隻が滞船していましたが、現在は108隻に減少しています。しかし、待ち時間が2週間にも及び、今後、滞船数が再び増加し、長期化する可能性があります。一方、スエズ運河経由の西回りルートもありますが、スエズ運河庁は船舶の通航料を2024年1月15日から5~15%引き上げます。値上げは欧州北西部から直接極東に向かうコンテナ船は対象外となります。

マースク、船舶資産比率の拡大が裏目に

 デンマークのAPモラー・マースクが11月3日、2023年7~9月期決算を公表しました。営業利益が19億ドル、前年同期の109億ドルから激減しました。純利益は前年同期比94%減少、5億5400万ドルでした。売上高は同47%減の121億ドルです。株価も3年ぶりに一時12%超えの安値を付けました。一方、2023年度内で全社員の約10%に当たる1万人を削減すると発表しました。この人員削減で6億ドルのコスト節約を見込んでいます。
 コロナ禍で資産の軽減化が求められるにもかかわらずマースクはCOVID-19パンデミック後の需要を見込み、自社コンテナ船比率拡大を図ってきました。総資産に占める船舶資産の比率が約40%に達しています。その重い資産の過剰輸送能力とコスト上昇、運賃下落の3重苦に悩んでいるのが現状です。マースクは、この厳しい収入減少の状況が、今後2~3年は続くと見て、2024年の自社株購入の見直し、設備投資の引き下げを決断しました。世界のコンテナ輸送の約17%を担う世界最大級のコンテナ海運会社です。その言動に厳しい現実を見ることができます。

ONEの持たない政策からの変更か?

 邦船3社(NYK, MOL, K Line)が共同出資するコンテナ船事業会社、Ocean Network Expressが10月31日に発表した2023年度(23年4月~24年3月)通期決算は、税引き後利益が前年度比94%減、8億5100万ドルになる見通しとなりました。売上高が前年度比51%減、144億7100万ドル、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前損益)が89%減、18億5500万ドルの黒字、EBIT(利払い前・税引き前損益)が98%減、2億5200万ドルの黒字と予想しています。11月15日付けで3社に対して2億1000万ドルの配当をします。今年6月にも19億8700万ドルを支払いました。
 ONEは2017年に設立され2021年末時点の運航規模は154万TEUで世界6位、シェアは6%を占めます。2030年度までに200憶ドル(2.4兆円)以上の投資見込みを発表しています。2030年度の運航規模は現行から6割近く増え、240万TEUの見通しを立てています。6月2日に2万4136TEU型コンテナ船6隻シリーズの第1船、“ONE INNOVATION”が就航しました。但しこの船は期間15年の長期用船です。ONE初めての自社新造所有船は3月15日に発注した積載能力13,700TEU型コンテナ船10隻です。竣工は2025年、26年からの就航です。

Stonepeak社がTextainer社を買収 コンテナ・リース業界の将来性を証明

 10月22日、米国インフラ投資会社、Stonepeak社が、バミューダに本社を置く、運用規模世界No. 2のリース会社、Textainerを買収したと発表しました。普通株式1株当たり50ドルで買い取り、10月20日の終値に対して約46%のプレミアムを上乗せしました。企業価値は約74億ドルとなります。1979年に事業開始、2007年にニューヨーク証券所に上場し、400万TEU以上のコンテナを所有・管理するTextainerは、株主の許可を経て2024年第1四半期に買収が完了、非上場となります。
 今年4月のBrookfield Infrastructure Corpが700万TEU以上所有・管理する業界No. 1のTriton買収劇に続くことになりました。買収額は1株85ドル(うち現金68.50ドルとBIPC株16.50ドル)で第4四半期に完了します。Tritonの企業価値を133億ドル(約1兆7600億円)としました。Tritonは1980年バミューダに設立、2017年に大手リース会社TALと合併しニューヨーク証券所に上場、事業規模拡大を図りました。
 このことは同業コンテナ・リース会社に大きな力を与えました。機関投資家からコンテナ・リース会社が投資対象として認知されたことの証明であり、大きな資金力をバックに、今後ますます発展する産業として未来を約束されたということができると思います。

CIMCのコンテナ販売量が落ち込み

 世界最大のコンテナメーカー、CIMCの今年7~9月のコンテナ販売量は前年同期比34%減、24万2,000TEU、うちDryコンテナが37%減、21万3,000TEU、Reeferは12%減の2万9,000TEU、2009年以来過去最低水準に落ち込みました。売上高は6.6%減、345億人民元(47億米ドル)、営業利益は61.3%減、8億9,820万元、当期利益は52.0%減、の4億6,100万元となりました。1~9月累計のコンテナ販売量は50%減、55万7,000TEU、Dryコンテナは53%減の47万7,000TEU、Reeferは20%減の8万TEUを記録しました。

2023年10月の新造コンテナ情報

 10月の製造価格は$2,000 per 20fです。今年1月の$2,100 per 20fに比較して$100下がりました。3月に$2,400 per 20fの高値を付け、5月まで同じで価格で推移し、6月、7月と$2,200 per 20fと低減し、8月に$2,100 per 20fを付けた後、9月$2,000 per 20fと下がりました。10月の新造コンテナ数は184,119 TEU (Dry: 172,077 TEU, Reefer: 12,042 TEU)。工場在庫は835,911 TEU (Dry: 785,115 TEU, Reefer: 50,796 TEU)。10月出庫数は217,200 TEU (Dry: 199,416 TEU, Reefer; 17,864 TEU)となりました。前月より生産量は全体で20%減、Dryは21%減、Reeferは1%増となりました。一方、新造コンテナ工場残は全体で、3.8%減、Dryは3.4%減、Reeferは10%減となりました。製造コンテナ数が減り、工場から出荷された数が増加しましたので、工場在庫数減となりました。

Drewryの中国・アジア経済の見通し

 海運コンサルタント、Drewry(英国)によると、9月の中国上位8港からのコンテナ輸出量は前月比2%減の650万TEU。前年比では9月は前年が低水準だったため20%増となりましたが、1~9月累計は前年同期比1.3%増、4,730万TEUと微増にとどまっています。来年の大中華圏のコンテナ取扱量(輸出、輸入、積み替え、空を含む)予測は前年比1%増、東南アジア、南アジアに比べ伸びが鈍くなるとみています。コスト圧力や地政学的緊張、貿易対立などを背景に中国から生産拠点が移転、中国出しコンテナ輸出はまだマイナスではありませんが伸びが鈍化し、中国はもはやアジア全体の成長に恩恵を与えておらず、中国以外のアジア地域に比べ相対的に衰退していくと指摘しています。

 世界はますます混迷をきたしていますが、我々は粛々とやるべきことをやり5年先10年先を見て商売をしていきたいと考えています。

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