【市況レポート】「米中の経済回復」「日本の賃金問題」他 2023年2月

  • by 中尾 治美

「米国は今年後半に向け景気回復」その背景とシナリオ

  米労働省が3日発表した1月の雇用統計の非農業部門の就業者数は前月から51万7000人増加しました。失業率は3.4%で前月から0.1%低下し、1969年5月以来の低水準となりました。平均時給は前月比0.3%上昇しました。一方、米連邦準備理事会(FRB)は8日インフレ抑制を優先し、金融引き締め強化を示唆しました。
 米国の景気後退が言われていますが、それに呼応するように、米IT大手5社のうちアップルを除く、マイクロソフト、アルファベット、メタ、アマゾンの4社が計5万1000人の削減に動いています。5社の従業員数は約220万人。その8割、176万人が過去3年間で雇用されました。5社の時価総額合計は2021年末、9兆7000億ドル(約1250兆円)。しかし1年後、その価値は5兆8200億ドル、40%近く減額しました。その結果、物言う株主に対して各社は競って大規模な人員削減に動いているのです。米国的な各社“右へ倣え!“の傾向を拭えないのでしょうか。勿論、その裏には、IT5社市場支配に対する世界各国の警戒による成長鈍化懸念対策も入っていると考えます。それ以外にも、デル・テクノロジーが従業員、13万3000人の5%、6600人の削減を計画、米ズームが従業員、8600人の15%、1290人の削減を発表、米金融大手ゴールドマン・サックスも全社員の6%に当たる3200人の削減、米ディズニーも2月8日、22万人の雇用の約3%に当たる7000人の削減に踏み切りました。米国企業の1月の人員削減数は10万2943人で、前月比2.4倍となり、リーマン・ショック後以来の高水準となりました。
 米失業率は、2009年10月の10.1%以来下がり続け、現在の失業率3.4%は米国経済の力強さの象徴といえるでしょう。米国の景気は今年後半に向かって徐々に回復すると考えます。それは、全米小売業協会(NRF)が、小売り事業者がコロナ禍で2022年需要を見誤り、前倒しで輸入を進め過剰在庫に見舞われ、その結果、2022年下半期(7-12月)から小売り輸入量が急激に落ち込んだものの、2023年から小売り輸入量は調整期間に入っており、年内いっぱいで適正在庫に戻り、物流、飲食・宿泊・娯楽業のサービス業が米国経済を牽引し、GNPの7割を占める力強い個人消費が年末に向かい景気回復をもたらす、というシナリオを描いているからです。

中国経済回復への期待と懸念

ゼロコロナ政策解除で、集団免疫獲得政策に切り替えた中国の経済活動が正常化に向かっているようです。今年1月には4年振りの移動制限のない春節を迎え、旅客数はコロナ前の2019年の実績の9割まで戻っています。しかし、消費者物価指数(CPI)の伸び率が拡大しています。それは3年に及んだ規制でサービス業の店舗、働き手が減ったことによる供給不足が物価を押し上げているためです。外食・娯楽消費増加も物価を上げている原因です。1月には中国の消費者物価が2.1%上昇しました。国内総生産(GDP)の4割を占める個人消費に与える影響は甚大と言わざるを得ません。一刻も早い中国の立ち直りを期待したいと思います。

IMFは世界の2023年の成長率を2022年の3.4%から低下するとし、2.9%に修正しました。世界貿易量も5.4%から2.4%に引き下げました。IMFは中国の成長率が1ポイント上がれば世界全体の成長率が、0.3ポイント押し上がるとみています。また、東南アジアの景気減速は中国経済の動向次第とみています。中国政府は2月6日から海外への団体旅行を解禁しました。中国からの観光客の影響も見逃せません。中国経済回復の波及効果が東南アジアに及ぶのは2023年後半とみています。一方、米国、オーストラリアが中国の監視カメラ製品を国防施設から排除しました。中国が40ヵ国以上に飛ばしている偵察気球に対して世界の先進国は中国の覇権主義を警戒しています。今後の中国からのサプライチェーンの流れに影響を与えることは必至です。

長引くロシアのウクライナ侵攻とトルコ・シリア大地震

 ロシアのウクライナ侵攻がこの2月で1年を経過します。戦争はますます激しさを増しています。ロシアは自国の信用と富を減らし、ウクライナだけでなく欧州を混乱に陥れています。2月6日、シリアに近いトルコでマグニチュード7.8と7.5の2つの地震が起こりました。14日現在、死者4万人を超える悲惨な被害をもたらしています。自然災害は避けようがありませんが、人災は無くしてもらいたいと切に願います。

日本は生産性を上げるためにも賃金を引き上げてほしい

  カーボンニュートラルの投資は世界各国の全産業にとっての大きな課題です。2022年、全世界の脱炭素関連投資は1兆ドル(約129兆円)を超えました。米国は2030年までに新車販売の50%以上をEVと燃料電池車(FCV)にします。欧州は2035年までにHVを含めガソリン・ディーゼル車を禁止します。日本も2035年までに全ての新車を電動化とする目標を掲げています。日本経済の再生のためにも企業が持っている内部留保金、500兆円を日本活性化の投資に回すことができれば、1990年バブル経済以降の失われた30年を容易に取り戻すことができます。その投資をまず労働者にしてほしいと思います。日本の労働者の賃金が上がれば、生産性が上がること間違いありません。
 国税庁の“民間給与実態統計調査”によると1990年の平均給与は425万2000円、2017年は432万2000円で、27年間で上昇した平均給与は7万円です。この現実をどう見ますか?夢も希望も無くなり、消費を切り詰め、老後資金に充てるために、少ないながらも貯蓄するのが現実ではないのでしょうか?全労連が、2016年のOECDのデータを基に作成した国際賃金比較表を見ると、他国は実質賃金が上がっているにもかかわらず、日本の実質賃金は1997年から2016年の19年間で1割以上下落している事がわかります。コロナ禍後の2022年の賃金格差はもっと開いていると考えられます。

                                                                            

日本の実質賃金国際比較  1997年=100
スウェーデン138.4
オーストラリア131.8
フランス126.4
イギリス(製造業)125.3
デンマーク123.4
ドイツ116.3
アメリカ115.3
日本89.7

 黒田総裁の、マイナス金利政策により、企業が儲かると給与が上がる、という理論が間違っていることは、事実が証明しています。であるが故に、4月に日銀の新総裁に起用される植田氏には、少なくとも円を強くして三分の一の物価上昇をもたらしている輸入価格を抑えてくれることを期待したいと思います。
 カジュアル衣料品店”ユニクロ“を運営するファーストリテイリングは1月11日、本社で働く国内従業員約8400人を対象に、3月から年収を数%~40%引き上げると発表しました。柳井正社長に最敬礼です。現職経営者の人達に切にお願いしたいと思います。社員の給与を、利益の中から最大限に上げて、大切な社員に夢と希望を与えては如何でしょうか?社員の生産性は間違い無く上がり、期待以上の売り上げが現実化すること請け合いです。我社も規模は小さいですが、利益が出れば賃金に反映させています。できるだけ早く一流会社の社員並みの給与を払い、社員に喜んで仕事をしてもらいたいと望んでいます。

コンテナ運賃の下落とILWU/PMA労使交渉の行方

  英国海事コンサルタント会社Drewryが2月9日発表した運賃指標は次のとおりです。Drewryは引き続き数週間は小幅の下落が続くと見込んでいます。

Drewry コンテナ運賃指標 2023年2月9日公表
航路名2月9日ドル/FEU前年比
総合指数1,997-79%
上海ー>ロッテルダム1,715-87%
上海ー>ロスアンゼルス2,047-80%
上海ー>ニューヨーク3125-77%

 今後の海上運賃、サプライチェーンを左右する米国西岸港湾労使交渉が2月初め、4か月ぶりに再開しました。現在、ILWU/PMA交渉への不安から、米国輸入貨物の一部が西岸港経由から東岸港経由の輸送ルートにシフトしており、米国西岸港湾における取扱量低迷の原因になっています。引き続き交渉の進展を注視していく必要があります。

2023年1月の新造コンテナ価格

              2023年1月の新造コンテナ価格は$2,100 per 20f、前月比$100, 5%の値上がりとなりました。新造コンテナの工場在庫は、966,606 TEU (Dry: 902,874 TEU, Reefer: 63,732 TEU)で、1月の工場在庫より75,768 TEU減りました。1月の出荷量は、129,238 TEU (Dry: 116,814 TEU, Reefer: 12,424 TEU)となりました。

福岡駐在員事務所を開設

              我社EFIは2月から福岡に駐在員事務所を開設しました。元Geneq社員、武本光功氏が定年退職されたので、彼の長い経験、信頼ある人柄を見込んでお願いしました。これにより、今までのお客様との関係性が、点と点から面になるので、お客様に喜んで頂けるものと確信しております。

博多駅前
改造コンテナハウスの施工を手掛ける(株)博栄さんの事務所。

シンガポールでKalmar社のDealer会議に出席

              先週一週間、3年ぶりに社員二人とシンガポールに海外出張に出ました。Kalmar社主催のDealer会議に出席するためです。入国審査では不慣れなスマホでの入国手続きをし、入国するのに、予定より1時間以上も時間がかかってしまいました。ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピン、コロンボ、タイ、中国、韓国からのDealerに加え、Kalmar社のスウェーデン本社役員、それにシンガポールのKalmar担当者を含め、総勢60名以上とお会いし、大変刺激を受けて帰国しました。それにしてもKalmar製Reachstackerの種類の多さに驚きました。こんなに多くの種類を造って採算は大丈夫なのかしら?しかし、スウェーデンの製品担当者は喜々として色々教えてくれ、Kalmar社Reachstacker並びにTerminal Truckerの品質に、益々、自信を深めました。南アジアではKalmar製Reachstackerがかなり使用されていますが、中国製の安い製品との差別化に苦労されている話を聞き、最終的に値段差を埋めるのは適切な部品供給、Aftercareがカギであることを確信しました。一方、参加しているアジアの若者の能力の高さ、熱心さに感動し、今後はアジアの時代であることを確信しました。

ミーティングの様子
Michel and Nakao

関連記事

TOP