北米西岸港の長期間待機解消か? / 世界景気悪化の懸念材料 / 中国のCOVID-19対策と国内景気への影響 / 異常気象 / WeThe15|コンテナ市況レポート 2021年9月

  • by 中尾 治美

              先月のレポートで運賃の値上がり、コンテナ不足の要因の一つに、北米西岸港、特にロスアンゼルス港、ロングビーチ港のコンテナの取り扱いの遅さにあると指摘した。そこに巣ごもり需要増による予想外の輸入コンテナの増大が拍車を掛けた。8月26日時点、両港の待機隻数は38隻で、着岸までに最大9日かかるケースも出ていた。しかし、9月第1週(8月30日~9月3日)の両港の取扱量は17万1,525TEUとなり、前週の9万8,667TEUから1.74倍に増加した。新型コロナワクチンの接種者増加で港湾労働者の現場復帰による生産性の向上の結果か?本気に取り組みだしたのか?やればできるじゃないかと期待したい。しかし、米国内陸の主要鉄道ターミナルでのシャーシー、トラック不足よる待機時間はまだまだ解消されず混乱がしばらく続くと予想される。10月初めには中国で国慶節の休暇がある。9月はその前の駆け込みカーゴラッシュが例年出てくる。その時の北米西岸港はどうなっているのだろうか?

              米国小売業協会(NRF)によると今年の上半期(1-6月)の実績は合計1,280万TEUで、前年同期比35.6%増加。下半期(7-12月)の実績&予想は、7月が前年同月比15.7%増で222万TEU、8月が12.6%増で237万TEU、9月は4.9%増の221万TEU、10月は前年同月比3%減の215万TEU、11月は1.5%減の157万TEU、12月は4.1%減の202万TEUとなり、2021年通しては前年比17.5%増の2,590万TEUに達すると予想している。
              米労働省が3日発表した8月雇用統計によると、非農業部門の就業者数は23万5,000人増となった。市場予想の72万人からは大幅に下回ったが、連邦政府が失業給付に週$300上乗せする特別加算は9月4日に期限切れとなるため就業者数は今後上がることが見込まれる。失業率は5.2%で前月から0.2%改善した。
              景気の動向について、英HISマークイットが23日発表した8月の購買担当者景気指数(PMI)に注目してみたい。PMIが50を超えると景気が良い。その指数が欧米で下がって来ている。米国の8月のPMIは55.4。これは7月より4.5ポイント低下した。5月から3ヶ月連続で低下した。ユーロ圏は59.5と7月より0.7ポイント低下した。

              世界景気悪化の懸念材料は半導体不足による関連製品の生産停止もさることながら、この夏場に集中した世界的異常気象が上げられる。最新被害状況は9月初めに米南部を襲った大型ハリケーン(アイダ)で米東部に記録的豪雨をもたらした。ニューヨーク市の地下鉄は冠水し、ニューヨーク、ニュージャージー州は非常事態宣言を出した。メキシコ湾岸の精油所・石油ターミナルが被害を受けたので、米政府は石油備蓄の放出を決めた。7月には米西部カリフォルニア州デスバレーで54.4℃を記録した。一方、7月中旬の欧州東部、ドイツ・ベルギーの集中豪雨による洪水で、道路・橋が損壊。260億ユーロ以上の被害を受けた。欧州南部、イタリア南部のシチリア島では8月11日に欧州で観測史上最高となる48.8℃を記録した。ギリシャは7月、8月の熱波に伴う山火事、トルコ南部も最高気温44.8℃を記録し、大規模な山火事が発生した。

              一方、中国政府は中国全土で都市封鎖を断行し、新型コロナウイルスの感染拡大を防いだ。今年4月初めには感染を収束させたと言われていた。しかし、5月末、塩田港で少数の港湾作業員の感染者が見つかったため、港の荷役停止を断行した。中国の対米貿易貨物取扱量の約4分の1を占める主要港である。2週間ほどで再開されたが、相当数のコンテナ船の沖待ち、大量の滞留貨物で港に大混乱を招いた。その上、8月11日に、年間コンテナ取扱量が2,700万TEUの世界第3位の寧波港の梅山ターミナルで作業員の感染が発見され、ターミナルは閉鎖された。寧波港の貨物の4分の1を取り扱っているターミナルなので、その影響は甚大である。中国政府のコロナウイルス感染防止意識は半端でない。それは来年、2月4日から始まる北京冬季オリンピック開催を控えているからである。また、2022年の旧正月が2月1日から始まるため、その時の国民大移動前に感染力の強い“デルタ株”を入れないことに必死である。しかし感染力が強いデルタ株は一度通常の生活に戻った国民を守るには、今まで以上の厳しい都市封鎖、行動制限、入国制限が必要のようである。中国政府が厳しい制限を設ければ設けるほど、国内景気拡大に水を差すことになる。ようやく復旧しつつある世界サプライチェーンがまた寸断される状況になるかもしれない。中国のCOVID-19対策に、これからも注目して行く必要がある。

              一方、中国も今年の異常気象の深刻な影響を受けた。7月に中国中部の河南省の省都、鄭州市で3日間に降った雨量は617.1mmに達した。鄭州市の平均年間雨量が640.8mmであるため、この3日間で1年間分の雨量に近い雨が降ったことになる。“1000年に一度”と言われるこの豪雨によりダムが決壊し、10万人が避難を余儀なくされた。社会的インフラが麻痺し、数社の大手自動車工場が操業停止に追い込まれた。世界のコンテナ貨物取り扱い第一位の上海港は、7月末、大型の台風6号が上陸し、数日に渡り上海港を閉鎖した。その結果、沖待ちが発生し、荷役作業がストップし混乱をきたした。中国華南地区から陸送で上海に持ち込まれるコンテナも有り、港湾作業の混乱に拍車をかけている。

              9月2日にDrewry Maritime Research が発表した米国、欧州、アジア発着主要8航路の世界コンテナ運賃指標(WCI)の総合指数は、$9,987.27 per FEUで、前週比1.7% ($170) アップ、20週連続上昇、前年同期比344%アップとなった。年初からの平均は$6,598 per FEUで、過去5年間の平均$2,294 per FEUを$4,304 per FEU上回り、2.87倍以上の値上がりとなった。航路別では、上海>ニューヨークが$15,035 per FEU, 前週比6% ($899) 上昇。上海>ロッテルダムが$14,074 per FEU, 2% ($287) 上昇。インバウンドのロッテルダム>上海は$1,617 per FEUと前週並みとなった。一方、ニューヨーク>ロッテルダムは$1,168 per FEU, 2% ($26) 上昇したが、ロッテルダム>ニューヨークは$5,776 per TEU, ▲11% (▲$685) と下落した。しかし、Drewryによると運賃上昇はしばらく続くと予想している。

              新造コンテナ価格は$3,950 per 20f。先月、$3,850 per 20fから$100, 2.6%の値上がりである。8月の生産総数は685,199TEU (Dry: 652,281TEU, Reefer: 32,918TEU) 7月より25,821TEU, 4%の増産である。8月末の新造コンテナ工場残は466,142TEU(Dry: 364,820TEU, Reefer: 101,322TEU)。先月から6.2%アップ。コンテナリース会社ではTritonが大きく目を引く。今年8月末までの注文数は、DryとReeferを合わせて900,000TEUを超えている。第2位の注文数を入れているTextainerの1.8倍である。船会社はどうしてもコンテナが必要なため、リース会社の条件を飲まざるを得ない。リース会社の注文総数でも足りないため、リース会社間の競争は無くなっているのが現状である。リース会社の売り手市場である。リース条件は10年以上の長期リース、中国・アジア返却、リース料金はファイナンスリースと変わらないのではないかと想像できる。リース会社は、船会社が10年以上使用した後は、中古市場で販売するだけとなり、願ったり叶ったりのリース市場である。そうなるとTritonが100万TEU近くの新造コンテナ発注を入れてもおかしくない。リース会社は笑いが止まらない現状だからである!

             8月24日に始まった東京パラリンピックが9月5日に13日間大会期間を終えた。史上最多、4,403人の選手が参加し、22競技539種目に挑んだ。一生懸命に頑張る身体障害者の姿は印象的であった。彼らの頑張る姿を見るにつけ、我々健常者が生きるのに、身体障害者を抜きに生きることはできないと確信した。身体障害者も健常者も表裏の関係であることを強く感じた。メッセージ、“WeThe15”、世界人口の15%は身障者である。この精神を大切にしていきたい。世界の争いは無くなるか?少なくなることは間違いない。

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